DDM Institute 代表 福田幹久先生
DDM Institute(ダブルドミノ理論)は、口腔を全身の健康の起点として捉え、歯科医療の本質を再構築する学びのプラットフォームです。
慢性炎症と発育機能の両面から“生きる力”を支える臨床を体系化し、日本の歯科医療の未来に希望と方向性を示しています。
今回、DDM Institute代表・福田幹久先生に、理念「口こそ全て」が生まれた背景と、歯科医療が人の人生をどう支えられるのかを伺う機会をいただきました。
歯科医療の価値を、あらためて人の幸せという原点から見つめ直せるインタビューです。
(聞き手:歯科衛生士 岡部茜)

・口こそ全て、が生まれた原点
岡部:
“口こそ全て”という理念が生まれた背景を教えていただけますか?
福田先生:
「口こそ全て」は、私が長年、歯科医療の価値とは何かを問い続けてきた中で生まれました。かつて私は、予防と定期的なメインテナンスこそが価値ある医療の形だと考えており、その評価の基準としてDMFT(むし歯・抜けた歯・治療済みの歯の数を合計して、口の健康状態を数値化した指標)を重視していました。
DMFTの数字が良好であれば健康──。そう信じていましたが、実際にはそう単純ではありませんでした。定期的に通院していても、歯ぐきの炎症がボヤのようにくすぶり続けている患者さんが多く、歯の動揺によって食事や会話に支障をきたすことも少なくなかったのです。
数字の上では良好でも、本当に人生が良くなっているのか?この問いが私の中でずっと残りました。そして気づいたのです。「歯科医療が支えるべきは、歯の健康そのものではなく、生き方を支えることだ」と。
歯科医療を人生の質(QOL)の観点から見つめ直したとき、従来の枠を超えた新しい価値基準が必要だと感じたのです。
岡部:
そこから、どのように考えが深まっていったのでしょうか?
福田先生:
歯周病と全身の健康には深い関係があります。口の中の慢性炎症は、糖尿病や心疾患、認知症などの引き金になることがわかっています。つまり、歯ぐきの炎症を抑えることは、命を守ることに直結します。
だからこそ、これからの歯科医療では「通っている」ことではなく、「良くなっている」ことに価値を置くべきです。PISA(歯ぐきの炎症面積を数値化した指標)などを用いて、慢性炎症を低い水準で安定させる。その結果を出す医療へ。
それは、以前岡部さんが語っていた“意味のある歯科医療”という言葉にも通じるもので、まさに私たちが目指すべき医療の姿だと感じています。
・生きる機能を支えるということ
岡部:
“口こそ全て”という言葉には、機能の視点も大きいですよね。
福田先生:
はい。顎や口腔は単なる咀嚼器官ではなく、 「呼吸する」「食べる」「話す」「笑う」という、生きるうえで欠かせない営みの中心です。だからこそ、生きる機能を支えることこそが歯科医療の軸だと考えています。この視点が「口こそ全て」という理念の根幹にあります。
そして、この考えを現場で実践するためには、理念を具体化した“医療モデル”をつくる必要がありました。そのバックボーンとなったのが、福田健太先生・栞先生が考案された「二重ドミノ理論」です。
岡部:
「メタボリックドミノ」という言葉はよく聞きますが、DDMの研修に参加して、“二重ドミノ”という考え方にはハッとさせられました。2つが重なり合って健康を左右する──。そのシンプルさの中に、本質があると感じます。
福田先生:
現代の病気の多くは、二つのドミノが重なり合うことで起こります。
ひとつは慢性炎症によるメタボリックドミノ、もうひとつは機能と発育ドミノです。この二つが重なって倒れると、健康は根本から崩れていきます。
だからこそ、ライフステージごとに「炎症のコントロール」と「機能・発育の支援」を両立させることが大切です。この両輪を整えることが、“人生を通して健康を支える歯科医療”に直結します。
・未来へつながる歯科医療のために
岡部:
私も実際にその診療を患者として体験して、先生の理論と現場が丁寧に結ばれていることを感じました。改めてお伺いしたいのですが、この考え方を日々の診療の中ではどのように形にされているのでしょうか?
福田先生:
私たちは、この理念を臨床現場で確実に実践できるよう、システムとして体系化しています。単なる定期管理ではなく、患者さん一人ひとりのライフステージに合わせて、「炎症のコントロール」と「発育・機能の支援」を両立させた診療を設計しました。
その仕組みを多くの先生方に共有できるよう、DDM Instituteでは6日間の実践コースとして体系的にお伝えしています。
口腔の健康が整うことで、呼吸が深まり、姿勢や睡眠の質が変わり、表情までも豊かになる。「顎と口腔の健康は、人生を左右する」──この言葉を、私は比喩ではなく日々の臨床で実感しています。
岡部:
福田歯科で歯科ドックを受けて、二重ドミノが倒れていないかを調べていただきましたが、根拠なく様子をみてきたことの将来のリスクに気づくことができ、自分と息子の未来の健康に本気で向き合う時間になりました。これは理想ではなく、歯科医療として“スタンダード”であってほしいと心から感じています。
福田先生:
私たちのミッションは、「口こそ全て」という理念を具現化し、人生を支える歯科医療を実践し続けること。その実践の中で得た学びをDDM Instituteを通して共有し、日本の歯科医療をより良い方向へ導いていきたいと考えています。
シュルッセルとは、臨床を通じて「口こそ全て」を共に具現化し、岡部さんの言葉で表される“意味のある歯科医療”を共創していきたい。そして、シュルッセルが日本の歯科技工業界における光となり、歯科医療に希望を灯す存在であり続けてほしいと思います。
歯科医療とは、人の生きる力に寄り添い、未来を支えること。
その志を共にする仲間がいることを、私は何より心強く、そして誇らしく感じています。
これからも互いの現場から、“命を支える医療”を日本のスタンダードにしていきましょう。
・あとがき
岡部:
福田先生の言葉に触れるたびに、自分の中の原点を思い出します。身が引き締まるような感覚と同時に、歯科医療に携わるということの意味を見つめ直す時間をいただいています。シュルッセルとしても「口こそ全て」という考え方を、補綴や技工という立場からどう形にできるか、その答えを探し続けています。
このインタビューの内容を読んでくださった皆さまが、歯科医療の原点にある“意味のある医療” を、もう一度それぞれの現場で考えるきっかけになれば嬉しく思います。